炎症後色素沈着について

手術や切り傷・擦り傷・やけど後の炎症後色素沈着は、日常診療の中でよく遭遇する疾患です。
色素沈着とは、簡単にいうと『ある部位でメラニンが増加している状態』のことです。
メラニンの増加している『部位』によって以下の3種類にわかれます。
① 表皮のみにメラニンが増加している状態。
② 真皮のみにメラニンが増加 している状態。
③表皮にも真皮にもメラニンが増加している状態つまり、強い炎症などによって表皮のメラニンが真皮に滴落した状態のことで、組織学的色素失調症といいます。

炎症後色素沈着は、①の表皮メラノサイト(紫外線などの刺激でメラニンをつくるもの)の活性化によって一時的におこるものと、③表皮にも真皮にもメラニンが増加している、組織学的失調症 の2通りあります。

①の場合は、紫外線暴露や炎症などが失くなれば、表皮メラノサイト(メラニンをつくるもの)の活性化が収束し、休止期のメラノサイトにもどり、その後、生理学的なターンオーバーに従って過剰なメラニンが排泄されるため、炎症後色素沈着は消失して元の皮膚色に戻ります。
①の一時的な炎症後色素沈着は露出部(顔や手背など)では3~6ヶ月 、非露出部でも6ヶ月~1年以内です。非露出部のほうが、紫外線暴露の機会が少ないために炎症性刺激に対しての反応が鈍いのですが、一旦メラノサイトの活性化が起こると元に戻りにくいため炎症後色素沈着は遷延します。
一方、③の場合は、表皮の炎症が収束し表皮メラニンが減少したとしても、真皮内のメラノファージが残存しているため、皮膚色は元には戻りません。炎症後色素沈着が1年以上続く場合は、③の可能性を念頭におく必要があります。

①の治療に関しては、残存する炎症に対しての治療、表皮のメラニン増加に対しての治療、真皮のメラニン増加に対しての治療の順番にすすめます。
具体的には、傷跡は乾燥により炎症を伴いやすいため、適切な保湿や、過度なケアによる刺激をさけることと、徹底した遮光が大切です。
表皮のメラニンの治療に関しては、炎症が落ち着いたと判断した後に美白剤を中心とした外用治療からまず始めます。具体的にはハイドロキノンやトレチノイン、ビタミンCなどの外用です。表皮のターンオーバーの促進および表皮メラニンの除去目的にて光治療器などを用いることもあります。
③の組織学的失調症になっている可能性が高い場合(露出部で6ヶ月以上経過、非露出部で1年以上経過の場合)は、経過観察や美白剤の使用を続けても改善しないことが多いため、Qスイッチレーザーなどの使用による積極的な治療を行なったほうが早いです。